手術室で働いている看護師の多くが、一度は「人間関係で悩んだことがある」と答えます。
人間関係のトラブルは仕事を辞めたいと思う理由にももちろんランクインしています。
手術室で働いていると、楽しくて頑張ろうと思える時も多いですが、「やりがいはあるけれど、正直つらい」「このまま続けていける自信がない」と感じる瞬間が何度も訪れます。 ここでは、実際に手術室を経験した看護師たちの声として挙がりやすい「やめ[…]
そこは閉鎖的な空間で、限定されたメンバーで強い緊張感のもと働く環境だからこそ、人間関係のストレスが他部署よりも大きく影響しやすいのかもしれません。
この記事では、実際に手術室で働く看護師からよく聞く「人間関係の悩み」を、医師・先輩・同期・後輩のカテゴリに分けて整理し、すぐに実践できる解決法を元手術室看護師が紹介します。
手術室の人間関係が特に難しい理由
他の診療科と比べて、手術室の人間関係が複雑になりやすい背景を理解することが、問題解決の第一歩です。
1. 少人数チームで密な環境
手術室は、1つのチーム(医師1~2名、看護師2~4名)が限られた空間で数時間一緒にいます。
距離が近い分、相手の機嫌や一言が強く響き、「気まずさ」が逃げ場なく続いてしまいます。
2. ミスが許されない環境
患者の命が直結する現場では、どうしても指摘や指導が厳しくなりやすく、
「完璧を求める文化」が醸成されやすいのです。その中では、自分も相手も完璧であることを無意識に求めてしまいます。
それぞれの役割ごとに重い責任がのしかかり、他者へ配慮するという余裕がなくなることも原因の一つに
3. 医師の権力構造が強い
手術室では医師の影響力が絶大です。
医師の機嫌一つが、その日の手術室全体の雰囲気を大きく左右してしまいます。
医師も手術前の緊張感で余裕がないことも。ちょっとしたイレギュラーがいら立ちにつながったりするときもあります。
悩み別・解決法
【医師との関係】気難しい医師・パワハラ的な対応
悩みの実態
- 「道具を渡すのが1秒遅い」と怒られる
- 手術の進み具合が気に入らないと、看護師全体が責められる
- 一度ミスすると、その後の手術で何度も嫌みを言われる
- 人前で恥ずかしい思いをさせられるような叱責を受ける
解決法①:相手のルールと「クセ」を事前に把握する
医師にも「得意・不得意」「好み・こだわり」があります。
同じ手術室内で経験を重ねると、「この医師は器械の順番にこだわる」「この医師は説明が好き」といったパターンが見えてきます。
事前に先輩に聞く、記録に残すなどして、その医師との”成功パターン”を身体に叩き込むことが重要です。
実はこれは「相手に合わせている」のではなく、「プロとしてのスキル向上」です。
解決法②:ミスを減らすための環境工夫
医師の怒りの多くは「ミス」に対するものです。
ミスを減らすために、以下を試してみてください。
- チェックリストを作る:その医師の手術では、いつ何を準備するか、紙に書いてポケットに入れておく
- 段取りを事前確認する:朝の準備時に「今日は腹腔鏡か開腹か」「予想手術時間は」を確認しておく
△になった時はこうする、□になった時はこうする、この場合はこれをすると複数パターン予想しておき、対応する器械も把握しておきます。
- 小さなミスを先に報告する:「申し訳ありません、〇〇が1本足りなかったので補充しました」と先制報告すると、医師も対応しやすくなります。
解決法③:境界を引く
もし医師の対応が「指導」を超えて、明らかにパワハラ・人格否定に近い場合、以下を検討してください。
- 師長や看護部に相談する
- 同じような経験をしている同僚に話を聞く
- 必要に応じて、その医師の手術に入るのを避ける調整をしてもらう(新人の間は難しいかもしれませんが、主張する価値があります)
- その医師の時はベテランの先輩看護師とペアにしてもらう。
「相手を変えることはできない。でも、自分の対応と環境は変えられる」という思考が、ここでは最も有効です。
【先輩との関係】厳しすぎる指導・先輩からのプレッシャー
悩みの実態
- 新人のときの指導が「指導」というより「詰め」に感じる
- わからないことを質問しづらい雰囲気
- 「これくらい知ってるよね」という暗黙のプレッシャー
- ミスをすると、その後ずっと信頼を取り戻すのに時間がかかる
解決法①:先輩の「厳しさの理由」を理解する
手術室の先輩が厳しいのは、「あなたが危険な状況に陥らないようにするため」という純粋な動機が大半です。
(もちろん、性格的に厳しい人もいますが)
手術室での「小さなミス」は、患者の命に関わるかもしれません。
だからこそ、先輩たちは「完璧を求める」のです。
この背景を理解すると、「怒られた=自分が嫌われている」ではなく、「怒られた=求められている。期待されている」という解釈ができるようになります。
解決法②:「質問」をポジティブに変える
わからないのに黙っているのが、手術室では最も危険です。
- 「すみません、この手順は毎回このやり方ですか?」
- 「申し訳ありません、〇〇の目的を確認したいのですが」
と、謙虚に、かつ主体的に質問することで、先輩も「この人は学ぶ姿勢がある」と評価が変わります。
むしろ、質問をしない方が「成長する気がない」と見なされることが多いです。
「これって○○で合っていますか?」と「この時って〇するので合ってましたっけ?」「これは、ここに置いてありましたよね?」と自分で考えたけど、心配なので念のため確認したい。というスタンスで質問するとすんなり教えてくれたりします。
解決法③:先輩との「信頼貯金」を作る
- きちんと挨拶をする
- 準備物を忘れない
- 時間に正確
- 後始末をきちんとする
- ミスをしたら、すぐに報告して対応する
こうした「小さな約束を守る」ことの積み重ねが、やがて「この人は信頼できる」という評価につながります。
1回のミスですべてが失われるのではなく、その後の「小さな信頼」の積み重ねで、また信頼を取り戻すことができるのです。
ミスをした時は、恐れて黙りたくなりますが、先輩にもきちんと謝罪をし、次どうするか自分の考えを伝え、先輩の意見もきちんと聞く。そういった誠実な態度が将来の信頼関係につながっていきます。
【同期・後輩との関係】競争意識・比較による悩み
悩みの実態
- 同期と技術・成長速度を比較してしまい、落ち込む
- 後輩ができるようになると、自分より優秀に見えてしまう
- チーム内での「ポジション争い」のようなものを感じる
解決法①:「個の成長」に焦点を当てる
手術室では、性格・適性・学習速度が人によって異なります。
同期の成長が早いのは「自分が遅い」からではなく、単に「別の道を歩んでいる」だけです。
大事なのは「去年の自分より成長しているか」という視点です。
解決法②:先輩・同期と「情報交換できる関係」を作る
競争ではなく、相互サポートの関係を構築することで、人間関係のストレスは大きく減ります。
- 「〇〇医師の手術のコツ、教えてもらえます?」
- 「今日こんなことで怒られちゃって…」
こうした情報交換・愚痴の共有は、チーム全体の結束を高めるとともに、個人のストレス低減にもつながります。
手術室では向上心こそ役に立ちますが、競争意識は本当に無駄です。手術の内容や、担当医師の性格によっても、相性があります。
手順通りに、言わなくても次の器械が出てくるスムーズな機械出しを求めている医師もいれば、手術の内容を隅々まで理解した、話ができる看護師を求めている医師がいたりと、本当に様々です。
もちろん、言った器械が出ればそれでいいという医師もおり、本当に様々です。
手術室内でも適材適所なので、誰かと比較して落ち込むより、自分の良くできるところを見つけて伸ばす方がよほど大事です。
環境の問題vs.自分の問題を切り分ける
人間関係の悩みが解決しない場合、以下の2パターンに分けて考えることが重要です。
パターンA:その職場・その医師・その先輩の「問題」
→ 配置転換、その医師の手術を避ける、転職など、環境を変える選択肢を検討
パターンB:自分の「コミュニケーション・対応の仕方」の問題
→ 質問の仕方を工夫する、準備をきちんとするなど、自分の行動を変える
ほとんどの場合、AとBが混在していますが、どちらが大きいか判断することで、取るべき行動が明確になります。
まず自分に自信を持って、やることをきちんとこなせるようになるだけでも、周りの人たちは変わったりします。いつも人手が足りなくなりがちな職場なので、責任感があり、誠実性がある人は戦力としてみなされることもあります。
どうしても改善しない場合の選択肢
試行錯誤を重ねても人間関係が改善しない場合、以下を検討してください。
1. 部署異動の申し出
同じ病院内で、別の診療科への異動を希望することで、新しい環境でリスタートできます。
2. 別の病院の手術室への転職
「手術室という仕事は好きだが、この職場の人間関係が合わない」なら、
別の病院の手術室を選ぶことで、スキルを活かしながら環境をリセットできます。
3. 手術室以外への転職
訪問看護、美容クリニック、外来など、手術室経験を活かしながら、
より人間関係がシンプルな環境で働く選択肢もあります。
手術室で働きながら、「このまま今の働き方を続けていて大丈夫だろうか」と不安になる瞬間はありませんか。 オンコールや緊張感の高い現場、人間関係、将来のキャリア、一般的な看護師としてのスキルがつかないことへのモヤモヤなど、手術室看護師ならでは[…]
最後に
手術室の人間関係がツライと感じるのは、決して「自分が弱いから」ではなく、
その環境そのものが、高い集中力と完璧性を求める特殊な場所だからです。
その特殊な環境から「ついトゲトゲしい言い方になってしまう」「言葉を重く受け止めすぎてしまう」というようなことが起こりがちです。
普段は仲のいい先輩同士がけんかをしているということもあるような環境です。
「自分に合った環境を探す」という選択肢もあります。
大事なのは、自分の心と身体の声を聞きながら、主体的に判断することです。
手術室で積み重ねた経験は、どこに行ってもあなたの強みになります。